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日常の「普通」と無人島の「普通」(博多basic)

日常から無人島へ

2021年9月某日、福岡港に無人島でキャンプするという企画に参加する人々が集まった。その多くは顔も知らないし、年齢、性別、職業もバラバラだ。唯一、同じなのは無人島に行きたいという変わった性癖を持ち合わせた人達という所だろうか。かく言う僕もその一人である。

博多港からフェリーで小一時間ほど海を渡った先に壱岐島がある。そこからさらに小さなボートに乗り換え無人島へ向かう。そこで現地に先乗りしているスタッフを含め今回の無人島生活を共にするメンバー全員が顔を合わせた。軽く自己紹介をしてスタッフが無人島でのいろはを説明する。

無人島でのルールの一つに敬語禁止というものがある。無人島では年齢も肩書も関係ない。生きるためにはお互いの知識や技術を出し合い、助け合わなくてはならない。

年齢や肩書で序列が決まる日常生活での「普通」はここでは通用しない。無人島には無人島の「普通」がある。

「普通」に食べるために

コンビニでおにぎりを買う。そんな当たり前のことが無人島ではできない。たとえ100万円持っていてもだ。

というわけでまずは食料調達から始めなくてはならない。支給された釣り竿で魚を釣るのだ。それと同時に米を炊くために竹が必要なのだが、僕は竹を調達するためのメンバーに入った。食料を調達しなければいけないということは容易に想像できるが、調理器具も作る必要があるのだ。

考えてみると米を炊くためには水を張って火にかける必要があるのだが、自然に存在するもので水を貯え、さらに火にかけられるものというのは少ない。竹やぶというと嫌われがちだが無人島にあってこんなにありがたいものはない。

そして料理をするためには火を起こさなくてはならない。この日はライターを使って火をつけたが、あくる日はひもぎり式の火起こしをした。

食材、調理器具、そして火がそろい、やっと料理ができるかといったらまだ大事なものがない。かまどである。火を効率よく燃焼させ風から守り、調理器具を安定させるものだ。火を起こす前にかまどをしっかり作らなければ、せっかく起こした火も使い勝手が悪い。

僕のグループのかまどは海からの風を避けるために大きな石を置いて風除けとしたのだが、竹で風除けを作っているグループもある。煮る、焼く、などどう調理するのかによっても形は変わるだろうし、かまど一つで個性が出ていておもしろい。

無人島で食べるためには食材調達以前に、火、かまど、調理器具を作ることが「普通」である。

狩猟採集が「普通」

先にも書いたが無人島にコンビニはない。それどころか畑や牧場もない。人が住んでいないのだから当然だ。食料は自然の中から探さなくてはならない。魚釣りはもちろん、手軽なのは貝を採ることだ。

カサガイという貝が簡単に採れてうまい。波打ち際の岩場にへばりついているのだが、危険を察知すると強力に岩に吸着して離れない。油断している隙にナイフを岩との隙間に差し込んでしまえば簡単にはがせる。のだが、なかなかはがれないとまごついていたら波をかぶるはめになった。

また、スタッフの一人が野草を摘むというのでついて行った。森を抜ける途中に薮の中で何かが動く。蛇だ。アオダイショウという、毒はないが不用意に近づけば噛まれる。しかしそのスタッフは臆することなく捕まえた。さすがである。

もちろん捕まえたのは食べるため。血を抜き、皮を剥ぎ、内臓を抜き、捌く。その日の晩は蛇のかば焼きがメニューに加わった。日常で蛇を捕まえ捌き、食べることは普通ないが、無人島では生きるために「普通」のことなのだ。

とはいえ全員がサバイバルスキル満載というわけではないので食料全てを現地調達していたら餓死者がでるだろう。この日の晩は持ち込んだ食材でカレーを食べた。みんなで作った無人島で食べるカレーは絶品だ。

ないものは作る「普通」

無人島では日常で普通あるものがない。最終日は無人島を脱出することになっている。来た時のボートはここにはない。ならば手作りのイカダで脱出しようというわけだ。イカダを出航させるのは来た時とは別の西側の海岸だ。しかし海岸までは密集した竹やぶが阻み通れない。想像だにしなかったが、竹を切り、道を作るところから無人島脱出は始まった。

一人なら気が遠くなる作業だが、30人弱のメンバーで進めば驚くほど速い。少し立派なけもの道という程度だが、人が通るだけなら問題ない。イカダは竹と持ち込んだウキを使って作る。竹は道を作るためにもう嫌というほど切ったが、イカダの材料にするためさらに切り倒す。

イカダはグループごとに作るのだが、僕のグループはスピードと安定を両立した(つもりの)アウトリガー付きイカダを作った。一列に並べたウキの上に竹を組み、それだけだと横に倒れそうなので、アウトリガーをつけた。スピードが出るかどうかは分からないが大きさでは間違いなく一番だ。

それにしても、ものを作るのは本当に楽しい。仲間とあれこれ案を出しながら自由にものを作ることは普段はあまりないだろう。

竹で舟が作れたのだから家だって作れるかもしれない。生活に本当に必要なものは自然から作り出せるのだろう。いつも使っているものより不便かもしれないが、きっと無人島ではそれが「普通」になる。

無人島から日常へ

手作りのイカダで仲間と共に無人島を脱出する。非常にエキサイティングだがそれは無人島生活の終わりでもある。

日常に戻るといつでも食べ物が手に入り、暖かい風呂に入れ、夜でも明るい。普通のことなのだが無人島生活を知った身にはそれが当たり前のことではないと感じる。食料調達には危険も伴うし、満足する量を採ることは大変だ。火を起こすのは時間も体力も消費する。明かりがない夜は暗くて歩くこともままならない。日常の普通が普通にあることにありがたみを感じる。

そして何より思ったのは、自分以外誰もいない無人の島に一人放り出されたら、生きていけないということ。一人では生きるためにやることが多すぎる。

しかし仲間となら生きていける。仕事を分担できるし、力を合わせて大きなものも作ることができる。それだけでなく、気持ちを分かち合える仲間がいること。何をするにも相手がいてこそ張り合いが出るものだ。

僕が感じた無人島での「普通」は日常での「普通」を当たり前のことと思わないようにするものになった。

Written by あさひ

※2021年度は参加者、スタッフ全員に事前に抗原検査を実施し、陰性が確認できた方のみご参加いただいております。
※移動時、屋内活動時、就寝時等はマスク着用を義務付けています。

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【参加型】2泊3日無人島キャンプ
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